00:23:19 そして二人の魂は、不識(しらず)に温和に愛し合ふ もう長年の習慣だ。 - あばずれ女の亭主が歌つた
01:23:18 なんにも訪(おとな)ふことのない、 私の心は閑寂だ。 それは日曜日の渡り廊下、 ――みんなは野原へ行つちやつた。 - 閑寂
02:23:23 幾多々々(あまたあまた)の孤児の手は、 そのためにかじかんで、 都会の夕べはそのために十分悲しくあつたのだ。 - 雪の賦
03:23:18 おゝチルシスとアマントが こそこそ話してゐる間 森の中では死んだ子が 蛍のやうに蹲(しやが)んでる - 月の光 その二
04:23:23 このすゞろなる物の音(ね)に 希望はあらず、さてはまた、懺悔もあらず。 - 春の夜
05:23:16 愛するものが死んだ時には、 自殺しなけあなりません。 愛するものが死んだ時には、 それより他に、方法がない。 - 春日狂想 1
07:23:18 石鹸箱(せつけんばこ)には秋風が吹き 郊外と、市街を限る路の上には 大原女(おほはらめ)が一人歩いてゐた - 独身者
08:23:32 きらびやかでもないけれど この一本の手綱をはなさず この陰暗の地域を過ぎる! - 寒い夜の自我像
09:23:21 あゝ 疲れた胸の裡(うち)を 桜色の 女が通る 女が通る。 - 夏の夜
10:23:32 水涸(か)れて落つる百合花 あゝ こころうつろなるかな - 臨終
11:23:25 雲の間に月はゐて それな汽笛を耳にすると 竦然(しようぜん)として身をすくめ 月はその時空にゐた - 頑是ない歌
12:23:27 あゝ それにしてもそれにしても ゆめみるだけの 男にならうとはおもはなかつた! - 憔悴 Ⅲ
13:23:25 私の青春も過ぎた、 ――この寒い明け方の鶏鳴よ! 私の青春も過ぎた。 - 修羅街輓歌 Ⅱ酔生 関口隆克に
14:23:30 ただただ月の光のヌメランとするまゝに 従順なのは 春の日の夕暮か - 春の日の夕暮
15:23:21 最後に見せた鹿だけは 角によつぽど惹かれてか 何とも云はず 眺めてた - また来ん春……
16:23:31 空に昇つて、光つて、消えて―― やあ、今日は、御機嫌いかが。 久しぶりだね、その後どうです。 - 春日狂想 2
17:23:24 愛するものが死んだ時には、 自殺しなけあなりません。 愛するものが死んだ時には、 それより他に、方法がない。 - 春日狂想 1
18:23:31 私は目をつむる、かなしい酔ひだ。 もう不用になつたストーヴが 白つぽく銹(さ)びてゐる。 - 宿酔
20:23:30 月は聴き耳立てるでせう、 すこしは降りても来るでせう、 われら接唇(くちづけ)する時に 月は頭上にあるでせう。 - 湖上
21:23:22 あゝ、怖かつた怖かつた ――部屋の中は ひつそりしてゐて、 隣家(となり)は空に 舞ひ去つてゐた! - 三歳の記憶
22:23:34 二十八歳のその処女(むすめ)は、肺病やみで、腓(ひ)は細かつた。 - 米子
23:23:26 幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました - サーカス