00:23:20 また今年(こんねん)も夏が来て、 夜は、蒸気で出来た白熊が、 沼をわたつてやつてくる。 - 初夏の夜
01:23:18 観客様はみな鰯 咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻(かきがら)と ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん - サーカス
02:23:25 トタンがセンベイ食べて 春の日の夕暮れは穏やかです - 春の日の夕暮
03:23:16 煙より 愉快なものもないのです やがてはそれがお分りなのです 同感なさる時が 来るのです - 冬の夜 2
04:23:23 ホラホラ、これが僕の骨だ、 生きてゐた時の苦労にみちた あのけがらはしい肉を破つて、 しらじらと雨に洗はれ、 ヌックと出た、骨の尖(さき)。 - 骨
05:23:17 思ふけれどもそれもそれ 十二の冬のあの夕べ 港の空に鳴り響いた 汽笛の湯気や今いづこ - 頑是ない歌
06:23:21 されば要は、熱情の問題である。 汝、心の底より立腹せば 怒れよ! - いのちの声Ⅲ
07:23:19 幸福は、休んでゐる そして明らかになすべきことを 少しづつ持ち、 幸福は、理解に富んでゐる。 - 無題 Ⅴ幸福
08:23:30 石炭の匂ひがしたつて怖(おぢ)けるには及ばぬ 灌木がその個性を砥(と)いでゐる - 月
09:23:22 上天界の夜(よる)の宴。 私は下界で見てゐたが、知らないあひだに退散した。 - 秋の夜空
10:23:34 朝、鈍い日が照つてて 風がある。 千の天使が バスケットボールする。 - 宿酔
11:23:25 幼年時 私の上に降る雪は 真綿(まわた)のやうでありました - 生ひ立ちの歌
12:23:29 かくて、人間、ひとりびとり、 こころで感じて、顔見合せれば につこり笑ふといふほどの ことして、一生、過ぎるんですねえ - 春宵感懐
13:23:24 黒い夜草深い野にあつて、 一匹の獣(けもの)が火消壺(ひけしつぼ)の中で 燧石(ひうちいし)を打つて、星を作つた。 - 幼獣の歌
14:23:30 その眼は怖くて、今日も僕は 浜へ出て来て、石に腰掛け ぼんやり俯(うつむ)き、案じてゐれば 僕の胸さへ、波を打つのだ - 思ひ出
15:23:22 私は残る、亡骸(なきがら)として―― 血を吐くやうなせつなさかなしさ。 - 夏
16:23:32 連れだつ 友の お道化(どけ)た 調子も 不思議に 空気に 溶け 込んで 秋は 案じる くちびる 結んで - 秋の日
17:23:24 汚れつちまつた悲しみに なすところもなく日は暮れる…… - 汚れつちまつた悲しみに……
19:23:23 私はおまへのことを思つてゐるよ。 いとほしい、なごやかに澄んだ気持の中に、- 無題
20:23:30 死んだ火薬と深くして 眼に外燈の滲みいれば ただもうラアラア唱つてゆくのだ。 - 都会の夏の夜
21:23:22 ――幻滅は鋼(はがね)のいろ。 髪毛の艶(つや)と、ラムプの金との夕まぐれ - 或る男の肖像
22:23:36 頭は重く、肩は凝るのだ。 さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、 その声は水面に走つて暗雲に迫る。 - 蛙声
23:23:25 いまひとたびは未練で眺め さりげなく手を拍きつつ 路の上(へ)を走りてくれば (暮れのこる空よ!) - 春の思ひ出