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杜子春
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11/08(月)
15 tweets
23時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
杜子春はまだ眼に涙を浮べた儘、思はず老人の手を握りました。「いくら仙人になれた所が、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭を受けてゐる父母を見ては、黙つてゐる訳には行きません。」
#sougofollow
21時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
「どうだな。おれの弟子になつた所が、とても仙人にはなれはすまい。」片目眇(すがめ)の老人は微笑を含みながら言ひま した。「なれません。なれませんが、しかし私はなれなかつたことも、反(かへ)つ て嬉しい気がするのです。」
#sougofollow
20時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
「お母さん。」と 一声を叫びました。……<六> その声に気がついて見ると、杜子春はやはり夕日を浴びて、洛陽の西の門の下に、ぼんやり佇んでゐるのでした。霞んだ空、白い三日月、絶え間ない人や車の 波、――すべてがまだ峨眉山へ、行かない前と同じことです。
18時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
大金持になれば御世辞を言ひ、貧乏人になれば口も利かない世間の人たちに比べる と、何といふ有難い志でせう。何といふ健気な決心でせう。杜子春は老人の戒めも忘れて、転(ま ろ)ぶやうにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸を抱いて、はらはらと涙を落しながら、
17時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
杜子春は思はず、眼をあきました。さうして馬の一匹が、力なく地上に倒れた儘、悲しさうに彼の顔へ、ぢつ と眼をやつてゐるのを見ました。母親はこんな苦しみの中にも、息子の心を思ひやつて、鬼どもの鞭に打たれたことを、怨む気色(け しき)さへも見せないのです。
16時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
「心配をおしでない。私たちはどうなつても、お前さへ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰(お つしや)つても、言ひたくないことは黙つて御出(お い)で。 それは確に懐しい、母親の声に違ひありません。
#sougofollow
14時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
息も絶え絶えに階(き ざはし)の前へ、倒れ伏してゐたのです。 杜子春は必死になつて、鉄冠子の言葉を思ひ出しながら、緊(かた)く 眼をつぶつてゐました。するとその時彼の耳には、殆(ほとんど)声 とはいへない位、かすかな声が伝はつて来ました。
12時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
見てもゐられない程嘶(い なな)き立てました。<br>「どうだ。まだその方は白状しないか。」 閻魔大王は鬼どもに、暫く鞭の手をやめさせて、もう一度杜子春の答を促しました。もうその時には二匹の馬も、肉は裂け骨は砕けて、
#sougofollow
11時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
未練未釈(みれんみしやく)な く打ちのめしました。鞭はりうりうと風を切つて、所嫌はず雨のやうに、馬の皮肉を打ち破るのです。馬は、――畜生になつた父母は、苦しさうに身を悶(も だ)えて、眼には血の涙を浮べた儘、
#sougofollow
09時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
好いと思つてゐるのだな。」 閻魔大王は森羅殿も崩れる程、凄じい声で喚きました。「打て。鬼ども。その二匹の畜生を、肉も骨も打ち砕いてしまへ。」 鬼どもは一斉に「はつ」と答へながら、鉄の鞭(むち)を とつて立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、
08時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
峨眉山の上に坐つてゐたか、まつすぐに白状しなければ、今度はその方の父母に痛い思ひをさせてやるぞ。」 杜子春はかう嚇(おど)されても、やはり返答を しずにゐました。「この不孝者めが。その方は父母が苦しんでも、その方さへ都合が好ければ、
#sougofollow
07時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
さつと森羅殿の前へ下りて来ました。その獣 を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといへばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩せ馬でしたが、顔は夢にも忘れない、死んだ父母の 通りでしたから。「こら、その方は何のために、
#sougofollow
05時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
やがて何か思ひついたと見えて、「この男の父母(ちちはは)は、畜生道に落ちてゐ る筈だから、早速ここへ引き立てて来い。」と、一匹の鬼に云ひつけました。 鬼は忽ち風に乗つて、地獄の空へ舞ひ上りました。と思ふと、又星が流れるやうに、二匹の獣を駆り立てながら、
03時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
さつきの通り杜子春を階(き ざはし)の下に引き据ゑながら、御殿の上の閻魔大王に、「この罪人はどうしても、ものを言ふ気色(けしき)が ございません。」と、口を揃へて言上(ごんじやう)し ました。閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れてゐましたが、
01時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月8日
あらゆる責 苦(せめく)に遇はされたのです。それでも杜子春は我慢強く、ぢつと歯 を食ひしばつた儘、一言も口を利きませんでした。これにはさすがの鬼どもも、呆れ返つてしまつたのでせう。もう一度夜のやうな空を飛んで、森羅殿の前へ帰つて来ると、
11/07(日)
13 tweets
23時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
焔に顔を焼かれるやら、舌を抜かれるやら、皮を剥がれるやら、鉄の杵(き ね)に撞(つ)か れるやら、油の鍋に煮られるやら、毒蛇に脳味噌を吸はれるやら、熊鷹に眼を食はれるやら、――その苦しみを数へ立ててゐては、到底際限がない位、
21時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
剣(つるぎ)の 山や血の池の外にも、焦熱(せうねつ)地獄といふ 焔の谷や極寒(ごくかん)地獄といふ氷の海が、真 暗な空の下に並んでゐます。鬼どもはさういふ地獄の中へ、代る代る杜子春を抛(はふ)り こみました。ですから杜子春は無残にも、剣に胸を貫かれるやら、
20時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
が、杜子春は相変らず唇(くちびる)一つ動かし ません。それを見た閻魔大王は、すぐに鬼どもの方を向いて、荒々しく何か言ひつけると、鬼どもは一度に畏(か しこま)つて、忽ち杜子春を引き立てながら、森羅殿の空へ舞ひ上りました。 地獄には誰でも知つてゐる通り、
18時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
顔中の鬚(ひげ)を逆立てながら、「その方はここをどこだと思ふ? 速(すみやか)に 返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責(かしやく)に遇(あ)は せてくれるぞ。」と、威丈高(ゐたけだか)に罵(の のし)りました。
#sougofollow
17時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
杜子春は早速その問に答へようとしましたが、ふと又思ひ出したのは、「決して口を利くな。」といふ鉄 冠子の戒めの言葉です。そこで唯頭を垂れた儘、唖(おし)の やうに黙つてゐました。すると閻魔大王は、持つてゐた鉄の笏(しやく)を 挙げて、
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16時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
閻魔(えんま)大王に違ひありません。杜 子春はどうなることかと思ひながら、恐る恐るそこへ跪(ひざまづ)い てゐました。「こら、その方は何の為に、峨眉山の上へ坐つてゐた?」 閻魔大王の声は雷のやうに、階の上から響きました。
#sougofollow
14時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまはりを取り捲いて、階(き ざはし)の前へ引き据ゑました。階の上には一人の王様が、まつ黒な袍(き もの)に金の冠(かんむり)を かぶつて、いかめしくあたりを睨んでゐます。これは兼ねて噂(うはさ)に 聞いた、
#sougofollow
12時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
氷のやうな冷たい風がぴゆうぴゆう吹き荒(すさ)ん でゐるのです。杜子春はその風に吹かれながら、暫くは唯(ただ)木 の葉のやうに、空を漂つて行きましたが、やがて森羅殿(しんらでん)と いふ額の懸つた立派な御殿の前へ出ました。 御殿の前にゐた大勢の鬼は、
11時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
<五> 杜子春の体は岩の上へ、仰向けに倒れてゐましたが、杜子春の魂は、静に体から抜け出して、地獄の底へ下りて行きました。 この世と地獄との間には、闇穴道(あんけつだう)と いふ道があつて、そこは年中暗い空に、
#sougofollow
09時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
神将はかう喚(わめ)くが早いか、三 叉(みつまた)の戟(ほ こ)を閃(ひらめ)か せて、一突きに杜子春を突き殺しました。さうして峨眉山もどよむ程、からからと高く笑ひながら、どこともなく消えてしまひました。
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05時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
神将は戟(ほこ)を高く挙げて、向うの山の空を 招きました。その途端に闇がさつと裂けると、驚いたことには無数の神兵が、雲の如く空に充満(み ちみ)ちて、それが皆槍や刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしてゐるのです。
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03時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
と言ふのです。 しかし杜子春は老人の言葉通り、黙然(もくねん)と 口を噤(つぐ)んでゐました。「返事をしないか。――しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷属(け んぞく)たちが、その方をずたずたに斬つてしまふぞ。」
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01時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月7日
その方は一体何物だ。この峨眉山といふ山は、天地開闢(かいびやく)の 昔から、おれが住居(すまひ)をしてゐる所だぞ。 それも憚(はばか)らずたつた一人、ここへ足を踏 み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。さあ命が惜しかつたら、一刻も早く返答しろ。」
11/06(土)
12 tweets
23時
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杜子春
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TO_SHISHUN
11月6日
金の鎧(よろひ)を着 下(きくだ)した、身の丈三丈もあらうといふ、厳かな神将が現れまし た。神将は手に三叉(みつまた)の戟(ほ こ)を持つてゐましたが、いきなりその戟の切先を杜子春の胸もとへ向けながら、眼を嗔(い か)らせて叱りつけるのを聞けば、「こら、
22時
1 tweets
杜子春
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TO_SHISHUN
11月6日
鉄冠子(てつくわんし)の留 守をつけこんだ、魔性の悪戯(いたづら)に違ひあ りません。杜子春は漸(やうや)く安心して、額の 冷汗を拭ひながら、又岩の上に坐り直しました。 が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐つてゐる前へ、
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20時
1 tweets
杜子春
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TO_SHISHUN
11月6日
一枚岩の上へひれ伏しました。が、すぐに眼を開いて見ると、空は以前の通り晴れ渡つて、向うに聳(そ び)えた山山の上にも、茶碗程の北斗の星が、やはりきらきら輝いてゐます。して見れば今の大あらしも、あの虎 や白蛇と同じやうに、
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18時
1 tweets
杜子春
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TO_SHISHUN
11月6日
――暫くはさすがの峨眉山(がびさん)も、覆(く つがへ)るかと思ふ位でしたが、その内に耳をもつんざく程、大きな雷鳴が轟(と どろ)いたと思ふと、空に渦巻いた黒雲の中から、まつ赤な一本の火柱が、杜子春の頭へ落ちかかりました。 杜子春は思はず耳を抑へて、
17時
1 tweets
杜子春
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TO_SHISHUN
11月6日
凄じく雷(ら い)が鳴り出しました。いや、雷ばかりではありません。それと一しよに瀑(た き)のやうな雨も、いきなりどうどうと降り出したのです。杜子春はこの天変の中に、恐れ気もなく坐つてゐまし た。風の音、雨のしぶき、それから絶え間ない稲妻の光、
15時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
さつきの通りこうこうと枝を鳴らしてゐるばかりなのです。杜子春はほつと一息しな がら、今度はどんなことが起るかと、心待ちに待つてゐました。すると一陣の風が吹き起つて、墨のやうな黒雲が一面にあたりをとざすや否や、うす紫の稲妻がやにはに闇を二つに裂いて、
14時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
やがてどちらが先ともなく、一時に杜子春に飛びかかりました。が、虎の牙に噛まれるか、蛇の舌に呑まれるか、杜子春の命 は瞬(またた)く内に、なくなつてしまふと思つた 時、虎と蛇とは霧の如く、夜風と共に消え失せて、後には唯、絶壁の松が、
12時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
四斗樽程の白蛇(は くだ)が一匹、炎のやうな舌を吐いて、見る見る近くへ下りて来るのです。 杜子春はしかし平然と、眉毛も動かさずに坐つてゐました。 虎と蛇とは、一つ餌食を狙つて、互に隙でも窺(うかが)ふ のか、暫くは睨合ひの体でしたが、
11時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
爛々(らんらん)と 眼を光らせた虎が一匹、忽然(こつぜん)と岩の上 に躍り上つて、杜子春の姿を睨みながら、一声高く哮(たけ)り ました。のみならずそれと同時に、頭の上の松の枝が、烈しくざわざわ揺れたと思ふと、後の絶壁の頂からは、
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09時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
しかし杜子春は仙人の教通り、何とも返事をしずにゐました。 所が又暫くすると、やはり同じ声が響いて、「返事をしないと立ち所に、命はないものと覚悟しろ。」と、いかめしく嚇(おど)し つけるのです。 杜子春は勿論黙つてゐました。 と、どこから登つて来たか、
08時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
杜子春はたつた一人、岩の上に坐つた儘、静に星を眺めてゐました。すると彼是(かれこれ)半 時ばかり経つて、深山の夜気が肌寒く薄い着物に透(とほ)り 出した頃、突然空中に声があつて、「そこにゐるのは何者だ。」と叱りつけるではありませんか。
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06時
1 tweets
杜子春
@
TO_SHISHUN
11月6日
決して声なぞは出しはしません。命がなくなつても、黙つてゐます。」「さうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行つて来るから。」 老人は杜子春に別れを告げると、又あの竹杖に跨(またが)つ て、夜目にも削つたやうな山々の空へ、一文字に消えてしまひました。
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